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2009-10-08

大山阿夫利神社 火祭薪能

大山阿夫利神社 火祭薪能
<開演前の能舞台>
大山阿夫利神社で毎年この時期に開催される「火祭薪能」を観た。とは言うもののご覧のとおりのあいにくの雨。屋根のない一般席の観客は色とりどりの雨合羽を着て、傘は観覧の妨げにならぬよう膝からしただけを覆うという涙ぐましい姿ながら、まだ緑深い丹沢山系の懐で織り成される幽玄な世界を堪能した。能の劇評は恐れ多くて差し控えるが、個人的には演目のひとつであった能「小鍛冶」を大変興味深く拝見した。長唄にも短いながらとても上品な同名の曲があり、その題材となっている本家本元を是非観ておきたかったからだ。中入り後に稲荷明神(シテ)が現れ三条小鍛冶宗近(ワキ)と刀を鎚で鍛える所作はお能にしては随分と具体的で微笑ましくさえ思えた。この曲に関しては長唄のもたらすイメージは能のそれと意外なほど素直に通じているように感じたがいかがであろうか。

9月半ばに坂東三津五郎が襲名以来の宿願であった歌舞伎舞踊「山帰り」を奉納した際に初めて訪れた阿夫利神社の能舞台。その際は初秋の風が爽やかな晴天の下、この度は、秋も少し深まった雨の夕暮れではあったが、阿夫利(あぶり)の由来は「雨降り」とも言うらしいことを思えば、雨合羽を着ての観劇もまた大山ならではの一興と言えよう。

この素晴らしい能舞台、ぜひ機会があればお訪ねになることをお勧めする。
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2009-07-25

能「融」 (国立能楽堂)

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<開演前の国立能楽堂>

古くからの友人のご好意で金春流櫻間右陣によるお能「融(とおる)」を観る機会を得た。世阿弥の傑作のひとつとされる「融」は源融が造営した六条河原の邸宅跡を舞台に、陸奥の塩竃を模したといわれる庭園の美しさや往時の煌びやかで風雅な日々を懐かしむという、ある意味たわいもない内容の曲である。その実、美しい詞章によって謡われる当時の六条河原院やそれを取り巻く京都の山々の明媚な景色を想い浮かべるうちに、なんとなく自分までもその時代にタイムスリップしたような不思議な心持にとらわれる。そして、中入の後、シテが月影に誘われるように軽やかに舞い始め、得も言われぬ恍惚感のようなものが漂うのも束の間、融の霊はあっという間に月光の中に消えて行く。後には幻想によって高揚した気持ちと二度と戻らぬ過去への寂寞感の双方が心に残る味わい深い曲であった。

「能」はまだまだ観始めたばかりで、本当のところは未だよく分からない。ただ、美しい能舞台、舞台ごとに個性的溢れる老松、華やかな装束、幻想的な笛や鼓の音、躍動感あふれる謡など「理解」とは別に五感に訴えるものの心地よさにはいつも感激させられる。だから、睡魔との戦いの連続になることがどんなに分かっていようとも能楽堂に足を運ぶことにはいささかのためらいもない。

 故 櫻間道雄二十七回忌追善 櫻間右陣之会 於 国立能楽堂 (090725)

2009-05-31

能 「忠度」 (於 矢来能楽堂)

5月23日(土)に神楽坂の矢来能楽堂で「忠度」を観た。高校での平家物語の授業の中でもとりわけ印象深かった「忠度都落」が懐かしく、この一曲はどうしても観ておきたかった。

お能は最近になって観るようになったばかりで、パフォーマンスの善し悪しは未だよく分からない。それどころか一曲の間に記憶が途切れる瞬間が幾度となく訪れるのが正直なところ。

とは言え笛や鼓などのお囃子や地謡を聞いているだけでとても何とも言えない心地良さである。とりわけ笛の音が好きである。(この心地よさがまた眠気を催す原因であるのだが・・・)
誰かが言うように、能楽堂で能の舞台を観ながらうたた寝するのが一番贅沢な時間の過ごし方かもしれない。

それにしても、矢来能楽堂のコンパクトな造りには驚いた。開演ギリで着いたので空いていたのが正面最前列だったが、そこから舞台の端まで1メートルぐらいしかない。足を伸ばせば階(きざはし)に載ってしまうのだ。(お行儀が悪いのでもちろん我慢したが・・・)聞けばこの能楽堂は個人の所有だとか。能楽堂を所有し、上手な演者の舞をみながらうたた寝をする、これぞ至高の贅沢ならまし。

行き暮れて 木(こ)の下蔭を宿とせば 花や今宵の主ならまし 忠度

さざなみや 志賀の都はあれにしを 昔ながらの山ざくらかな 読人しらず (千載集)
プロフィール

瑠璃松(無住庵 庵主)

Author:瑠璃松(無住庵 庵主)
蕎麦屋案内サイト「蕎麦三昧」庵主が伝統芸能(文楽、能楽、歌舞伎、長唄など)と歴史と文化の国「イタリア」について熱く語ります!
蕎麦に関する記事は拙ブログ「そば処探訪 名店の今昔」に転載、新しい記事もそちらにアップして行きます。

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