2009-11-08
文楽「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」

平安時代に活躍した陰陽師、安陪清明が実は父保名(やすな)と信田の森(しのだ:現在の大阪府和泉市)に住まう白狐の間に生まれたとする伝説に依拠した「芦屋道満大内鑑」を観る機会を得た。
保名は自害して果てた想い人「榊の前」の実の妹「葛の葉」になりすましていた白狐(白キツネ)との間に子供を設け穏やかな日々を送っていたが、本物の葛の葉が追いかけてきたことから、白狐の正体が暴かれる。保名はそれでも温情を示すが、白狐は己の定めと夫子と別れ、障子に「恋しくば 訪ね来てみよ 和泉なる 信太乃森の うらみ葛の葉」との一首を残して元の棲かである信田の森へと涙ながらに帰って行く。そしてこの童子こそが後の安部清明その人である。
・・・と、まあ荒唐無稽なストーリーが少なくない浄瑠璃の世界においてもひときわ怪異な物語であるが、保名に命を助けられた恩返しのつもりで葛の葉になりすますうち、深い情を交わすこととなった狐の心根と母子の別れが切ない物語である。愛らしい白ギツネの人形と若く美しい葛の葉を巧みに遣い分ける吉田文雀の技とその狐の一人道行「蘭菊の乱れ」で立三味線を勤める鶴澤清治の緊迫感あふれる演奏に思わず鳥肌が立った。
一昔前野村万斎主演の映画「陰陽師」で話題になった安陪清明が今再びブームと聞く。晩秋の大阪で同時にかかる「心中天網島」とは時代も題材も対照的な本狂言も見所の多い舞台である。
国立文楽劇場「錦秋公演」 11月23日まで 詳しくはこちらまで
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